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2010年7月20日火曜日

朗読の快楽/響き合う表現 Vol.18

その過程で、スタートアップ時の社長だった山田氏は引退し、ニフティサーブ時代からの知り合いだったライターの西東氏に代表取締役をお願いしていた。「はなのある風景」の制作では、彼女にテキスト選定をおこなってもらい、それを声優たちに朗読してもらっていた。

その番組は半年強作られ、「はなのある風景」は20作品以上が完成した。古典を含む名作文芸作品の抜粋と、オリジナル音楽で構成された、私たちの渾身の作品である。このころには若手声優たちも大きく育ってきて、個性的な朗読ができるようになった者も出てきた。

残念ながら制作予算の都合で「はなのある風景」は半年ちょっとで打ち切りになった。BSデジタルという放送が、チャンネル乱立のなかで制作費を確保するのが難しく、それは現在にいたるも大きな問題として残っている。同時にFM番組のほうも制作が難しくなってきた。

スタートアップで目論見がはずれたアイ文庫の事業は、ラジオ制作業務へとシフトしようとしたのだが、いかんせんコミュニティFMではまったくお金にならない。営業力もなく、スポンサー獲得もままならなかった。先の連載「オーディオブックの真実」にくわしく書いた。

いろいろな経緯があり、結局、アイ文庫はオーディオブックの制作会社として細々と営業していた。2005年夏、iTunes Music Store が日本に上陸し、オーディオブックのマーケットが登場した。オーディオブック専門の制作配信会社のことのは出版と組んだ。

今度こそアイ文庫は積極的にオーディオブック制作に乗りだした。自主制作ではこれまでどおり、夏目漱石の長編小説を含む名作文学をたくさん作った。著作権処理をすませた依頼ものも作った。寺山修司、筒井康隆、陳舜臣、川端康成といった人の文芸ものが多かった。

ほかにも変わったところでは、高校の教科書、英語の本のオーディオブック化なんてこともやった。それと並行しながら、朗読研究会もますます盛んになっていった。声優やナレーターが集まってきて、それはオーディオブック目的だったのかもしれないが、研究会にも熱心だった。

研究会ではあくまで「朗読」が勉強の中心で、吹き替えやナレーションではなかった。彼女らの多くは声優学校やナレーター事務所の養成所出身で、不思議なことにそういうところでは「朗読」はほとんど教えられないのだそうだ。たまに朗読教室のようなものはあっても……

アナウンサーや声優や俳優の私塾か、カルチャーセンターで、カルチャーセンターも教えているのはアナウンサーか声優か俳優だった。教える内容も「放送技術」的なものか「演劇」の延長線上での読みを超えないものだった。「朗読」そのものを研究している場はごく少なかった。

渡辺知明さんがやっている「表現よみ」の会というのがあって、そこは私たちとは少しアプローチは違っているが、放送技術ではない「朗読」をやっている。が、そういうところはとても少ない。「朗読」とうたっていても、文章の「内容を伝える」ための読みがほとんどだ。

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