まず来てくれたのは、若いお兄さん。ニコニコして、こちらが話しかけるとなんでもきさくに答えてくれました。
聞いてみると、仮設住宅におばあさんとふたり暮らしということで、一日中家にいてテレビばかり見てすごしているとのことでした。仕事はしていないのです。
どんな番組が好きなのかと聞いてみると、お笑い番組が好きで、とくに「笑点」がお気に入りとのことです。それなら、朗読も多少は興味を持ってくれるかな、と思いました。
87歳だという、びっくりするくらい元気なおばあさんが来てくれました。このおばあさんは本当に話し好きで、そして歌好きで、私たちのイベントはすっかりこのおばあさん中心に進めることになりました。こちらから一方的に用意してきた出し物やワークをやるのではなく、おばあさんの話を聞きながら、歌ったり朗読したり、といった具合に進めていきました。
おばあさんは老人クラブで歌っているという替え歌を何曲か歌ってくれました。お座敷小唄の替え歌で、ボケ防止の歌だという、全部で5番くらいまである歌を、なにも見ずに完璧に歌ってくれたり、演歌の替え歌を歌ってくれたり。私たちのほうが楽しませてもらったほどです。
ほかにも他県から応援に駆けつけていた役所の人も来てくれました。私がピアノを弾いて、何曲かいっしょに皆さんと歌いました。選曲をいろいろ考えてきたんですが、世代を越えて共通に歌えるのは、坂本九の「上を向いて歩こう」や「見上げてごらん、夜の星を」などがもっともふさわしかったようです。被災地では多く「ふるさと」が歌われているようですが。
私たちの朗読も聞いてもらいました。朗読プログラム「Kenji」は長いので、短い「一年生たちとひよめ」を聞いてもらいました。
仮設住宅に暮らしている人たちにはコミュニケーションのニーズがあるようで、話したがるし、なにかいっしょにやれることがあるととても喜んでもらえるのでした。
話には津波のときの様子が出てきて、まだまだ話し足りないようでした。こちらも聞くこと、共感することに徹して接することを心がけました。
終わってから、おばあさんはとても楽しかった、ありがたかった、とみんなと何度も手を取りあってくれました。青年も相変わらずニコニコと楽しそうでしたし、役所の人たちもいっしょに歌に参加してくれたりと、私たちもいろいろと学んだり気づいたりすることが多かったです。
こういう活動の場へ皆さんにもっと来てもらうための工夫についても、あとから三谷産業のおふたりといろいろと話し合ったりもしました。
終わったのは午後4時半くらい。日がかげりはじめたなかを撤収し、志津川小学校の体育館をあとにしたのでした。
(つづく)