2010年9月8日水曜日

声優・ナレーター・朗読者が使うヘッドホンについて

ヘッドホンを買いたいがどのようなものがいいか、ということを時々聞かれるので、簡単にまとめておきたい。
まず、選択肢として、ヘッドホンではなくてイヤホン型のレシーバーが多く使われているが、これはNG。イヤホン型レシーバーはあくまで娯楽用であり、簡易モニターなので、勉強用には不向き。また、電車の中などつい大音量で聴いてしまいがちになり、朗読者の命でもある耳を痛めることがよくある。
ロックバンドをやっている(いた)人で難聴の人が多いのは、ライブのせいではない。イヤホン型レシーバーを使って大音量で音楽を聴くのは(とくに一定のビートと低音をブーストしたものを聴くのは)、想像以上に耳に与えるダメージは大きい。朗読者はなるべくイヤホン型レシーバーを使用しないように心がけたい。使うときには音量に細心の注意を払いたい。

ヘッドホンには大きく分けて2種類のタイプがある。密閉タイプとオープンエアタイプ。微細なニュアンスを聞き分けるにはどちらが適しているか、あらためて書くまでもないだろう。そして朗読やナレーションなど人の音声を詳細に聴くというのは、音楽鑑賞以上に微細な観察行為である。
人の声の要素としては、息使いやリップノイズのような微細な音成分から、音圧の高い声成分まで、幅広いレンジがある。それらをきっちり聞き分けるには、それなりの解像度の高いモニター(ヘッドホン)と、よく訓練された「耳」が必要になる。
人の声と音楽との一番大きな違いは音域だろう。非常に低い音から高い音まで存在する音楽に対し、人の声の主要成分は中音域(300~700ヘルツ前後)に集まっている。とはいえ、低音域と高音域がないわけではない。その証拠に、両方の音域をカットすると、電話のような声になる。
人の声には音程としては現れない倍音成分が豊富に含まれていて、それらが音質や表情を作っている。中音域だけ再生できればいいというわけではない。とはいえ、中心成分は中音域に多く集まっているので、中音域の再生に強いヘッドホンを選ぶのがよいだろう。
J-POPやロックなど、現代商業音楽の再生を主目的にした多くのヘッドホンは、低音域の極端なブーストや高音域のいわゆる「伸び」や「抜け」を重視した作りになっているので、人の声の再生にはあまり向いていないといわざるをえない。できればフラットな特性のものを選びたい。
出回っているヘッドホンでこの目的に一番近いのは、クラシック音楽用とされているものだろう。これとて、好みによってピアノがきらびやかに聞こえる高音域が伸びるもの、落ちついた音色のもの、オーケストラの迫力が増す低音域に強いものなど、さまざまある。

ヘッドホン選びにおいてもっとも理想的なのは、自分がよく聴いている親しいナレーターや朗読者の声を録音したCDを持参して、店で実際に聴いてみることだ。
自分の声はNGである。自分の声は自分が聴いているようには人には聴こえていない。よく聴いている人の声がよい。しかも生で直接聴く機会がある人の、きちんと録音されてマスタリングされた音源が準備できればベスト。それをかけて、もっとも自然に聴こえるヘッドホンが、あなたにとって最適のヘッドホンに近いだろう。
しかしここまで準備するのは大変だし、そもそも店に行けないこともある。その場合は、購入者の評価や知り合いの推奨、データ、価格帯など、さまざまなデータを見て検討することになる。
価格としては、一概にはいえないし、上を見ればきりがないが、やはり1万円以上であるかどうかが製品クオリティの判断基準点になるかと思われる。
使用状況によっては密閉タイプよりオープンエアタイプがよかったり、最近ではノイズキャンセラー付きのものが安価になったりと、さまざまな選択肢があるので、詳しい人に直接相談するのがもっとも適切だろう。現代朗読協会に来れば私も気軽に相談に乗ります。