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2009年11月11日水曜日

ロードクライブ「メイドたちの航海」総括レポート

 今年の夏、お盆前後だったと記憶している。なにかの折にまりもさんと雑談をしているとき、
「メイド喫茶でアルバイトしたことあるんです」
 という話が出た。
「ええー!」
 びっくりして、よくよく話を聞いてみたら、その店はアルバイトが自前でメイド服を用意するシステムだったので、いまもそのメイド服を持っているというのだ。
「じゃあ、メイド服を着てライブをやろう」
 軽い気持ちでいったのが、すべての始まりだった。
「メイドが冥土の話をするというのはどうだろう」
 完全なおやじギャグだったが、それに自分自身が縛られて苦労することになるのは、そのときには知るよしもない。

 ゼミ生に提案し、出演者を募集したら、あれよあれよという間に10人以上が出たいと集まった。全員女性。年齢はまちまち。貴重な男性である照井くんに制作をやってもらうことになった。また、これまでいなくて苦労していた演出助手という役割を、出演者でもある暫さん、つきみちゃん(と唐さん)にやってもらえることになった。
 これでおおまかな体制が整った。9月始めのことである。
 私は脚本の執筆に取りかかった。といっても、ちょうどこの時期、名古屋で大きな公演「Kenji」が行なわれており、ひと段落ついたのはその公演が終わり、名古屋での打ち上げから戻ってきてからのことだった。ライブ当日まで2ヶ月をとっくに切っている。
 メイドが冥土の話をするというので、最初は既成の文学作品を拾って構成しようと思っていたのだが、なかなか適当な作品がない。結局、大部分を書き下ろし、あるいは自分の作品をリメイクすることになった。
 この作業に、ほとんどかかりきりで丸五日以上かかった。
 出演者が決まっているので、だれがどこを読むのかこちらでイメージしながら書く。ま、座付き作家ですな。そして、ひとつのストーリーを書きあげる手法ではなく、いくつかの短い作品をコラージュする手法を取ったので、まるでパズルを組み立てるような作業でもあった。

 なんとか脚本が完成し、リハーサルが始まった。
 といっても、現代朗読協会では「作りこむ」とか「あらかじめ決めておく」ということをなるべくしないようにしている。お客さんとその場の環境と自分自身のコンディションに応じて、時間軸とコミュニケーションのなかで自在に表現が変化していけることをめざしている。なので、稽古は各自おこなってもらい、リハーサルでは個別の演出と、動きやきっかけの確認くらいしかしない。
 私は音楽演奏で参加するが、その音楽すら直前までほとんど決まっていないし、本番でもその場の雰囲気とコミュニケーションに応じて変化する。
 これが我々の最大の特徴だ。

 本番直前の衣装合わせを兼ねたリハーサルはおもしろかった。なにしろ、10人のメイド服を着た女性が勢揃いしたのだ。羽根木の現代朗読協会の家はそれだけで異空間と化した。そしてまたそれぞれがとてもキュートなのだ。
 私はコスプレに興味はないが、それでもみんなの姿にはつい見とれてしまった。
 当日パンフレットに私が書いた文言を紹介しておこう。いうまでもなく「まんじゅうこわい」のパロディである。

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 まずお断りしておくが、決して私は「メイド萌え」などというものではない。いや、ほんとに。
 その証拠に秋葉原あたりにたくさんあるらしい「メイド喫茶」なるものにも一度も行ったことはないし、プライベートでも「メイドプレイ」なんかに興じたこともない。私は「女性の服装に左右される〈萌え現象〉」とは無縁な人間なのである。そもそも私は、着ているもの(外側)にはほとんど興味がないのである。
 それなのに、どうしてこのような事態になってしまったのか。
 言い訳しておこう。
 本日の出演者のひとりが(だれとはいわないが)なにかの折に、
「自分はメイド喫茶でアルバイトをしたことがあり、そのとき着たメイド服をまだ持っている」
 ふとそう漏らしたのが始まりだった。
 それ、見てみたい! とは思わなかったけれど……思わなかったけれど、次の瞬間、私の口をついて出たのは、
「全員がメイド服を着て冥土の話をするのはどうかな」
 このさむーいオヤジギャグがなぜかどん引きされることもなく、それどころか計画が勝手に走りだしてしまったというわけだ。
 ある者はメイド趣味の友人からメイド服を借り、ある者はわざわざネットで注文して取り寄せ、ある者は自前のメイド服をいそいそと取りだし、となんだか大盛り上がりなのである。告知用のイメージ写真の撮影会も盛り上がった。なんだか、ライブの中身よりも、メイドのコスプレそのもののほうが楽しそうなのだ。
 中身はどーするんだっ!
 というわけで、メイド萌えなどでは決してない私は、やむなくオリジナル脚本を書きあげた。
 本日、ここに登場するメイドたちが語るストーリーは、おそらくだれも想像しなかったようなものだろう。皆さんにもぜひ、メイドの「怖さ」を知ってもらいたいのである。
 メイドこわい、メイドこわい、メイドこわい……
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 本番当日。
 幸い、会場が現代朗読協会から歩いて行ける距離にあったので、午前中は全員が羽根木の家に集合。衣装を着け、化粧をして、準備。少しだけ確認のリハーサル。
 機材運び。会場の店〈Spirit Brothers〉には楽器類や照明器具がないので、全部こちらから搬入する。といっても、まあたいした分量ではない。楽器や音響機材がほとんどだ。
 メイド服を着こんだ出演者たちが歩いてぞろぞろと会場に向かうのは壮観だった。通りがかりの人たちはなにごとかと思ったことだろう。
 会場入り。ステージ位置、音響と照明のセッティング。この店のマスターは栃木出身ということで、朴訥とした語り口が独特だ。が、仕事はテキパキしていて、とてもありがたい。
 正午に会場入りして、開場時間の14時には充分に間に合った。短くはあるが、現場リハーサルまでやれたほどだ。

 開場時間になって、メイドたちは「メイド缶詰」と呼んでいた狭い控え室と、カウンターの内側に身を隠す。
 お客さんが入ってきた。開演の14時半にはほぼ満席となった。
 ほぼ時間通りにスタート。店内の照明を落とし、ステージ周りに照明を集める。ステージといっても、店のまんなかのテーブルを片付けて椅子を並べただけの場所なのだが。
 メイドたちがゾロゾロと出てきて、店の入口の階段のところに立ち並ぶ。その風情は、糸の切れた操り人形。
 千田さんが影ナレ的にアナウンス。実はこれも脚本の一部。そして前半がスタートした。

 リハーサルのときに私が見ていて思ったことだが、全員それぞれとても個性的で、しかし全体でひとつの表現を作りだしていて有機体のように機能している。実に魅力的で、進行が飽きない。
 本番でもそのとおりで、お客さんたちは食いいるように見て、聴いてくれている。そして出演者との間に濃密な非言語コミュニケーションの空間が生まれている。
 前半は予定どおり、40分で終了。休憩となる。
 この休憩も、ただの休憩ではなく、メイドたちはそのままお客さんのところに行き、本物のメイドみたいに飲み物のサービスをしたりするのだ。

 20分くらいの休憩のあと、後半がスタート。後半のメインは「つがの行き」というホラーというか、スプラッタなストーリーだ。それをメイドたちが次から次へと息つく隙もなく、たたみこむように語りついでいく。全員の息がぴたりと合って、なかなかスリリングだったのではないだろうか。
 そしてエンディングは宮沢賢治の「めくらぶどうと虹」。
 最後に「虹が消え、そしてまたどこかで生まれていく」という、全体を包みこむようなメッセージを、賛美歌のようなメロディに乗せて全員が歌って、終了。この歌は私が作った。

 たった一回きりのライブだった。終わってみると、なにかもったいないような名残惜しさが残った。
 お客さんたちとしばし歓談。どなたもとても喜んでいただけたようである。
 そして機材の撤収、引き上げ。羽根木の家にもどり、打ち上げ。

 以下にご来場の方からいただいたアンケートの内容を、一部紹介しておく。

◎新しい体験的、感動ありました。
 声の美しさ、力を感じ、又ぜひ観たい、この空間に身を置きたいと思います。

◎この公演は初めての体験です。
 題名を知ったとき、いかなるものかと想像がつかなかったのですが、現代を面白く表現され、とても好いと思いました。かわいい今風のメイド服が皆様よくお似合いでした。

◎ピアノとのマッチングがばっちりでした! 出演者の皆様も、表現力が豊かで上手でした。個人的な意見ですが、もっとメイクやヘアスタイルをがっちり作って、お人形っぽくしても良かったのではないでしょうか?

◎もっと過激な内容かと思ってましたが、いやされました。
 みなさん、ステキな声でうらやましいです。頑張ってください。

◎音楽との調和が素敵でした。
 短い時間でしたが楽しい時間がすごせました。ありがとうございます。

◎可愛かったよお~♡
 楽しかったです。物語風に、演劇の様に語られるお話に引き込まれてしまいました。またこのような企画を是非お願いします。

◎ちょっとおそろしかったですが、メイド服はかわいかったです。

◎出演者と観客が一つになれる企画だと思いました。楽しかったです。
 面白い企画で目で楽しむこともできました。なり切っている皆さんが面白かったです。

◎階段の話が個人的に心を飲まれました。全体として、一本のテーマがあるか、注意していましたが、オムニバスとしても楽しめました。
 各人個性があって良かったです。とても楽しかったです。

◎歌をきいてるように(ミュージカルを)みているように、楽しめました。

◎朗読の素晴らしさを改めて知りました。ひとつひとつのお話に吸い込まれていきました。
 表現の豊かさに感動しました。

◎不思議な世界が体験できました!! 個性的な表現ばかりで、引き込まれました。後半のはすごくこわかったけど(泣)
 これからもがんばって下さい! また絶対観に来ます♡

◎新境地おめでとうございます!! タフなメイドの破壊力にメロメロです。

◎面白い! とにかく面白かった。まずシナリオが素晴らしかったです。水色文庫で紹介されたシナリオもありましたが、大幅に加筆されていましたね。出演者の方々の朗読も本当に質の高い素晴らしいものでした。これからも、このような公演を楽しみにしています。
 他の人のセリフにかぶせる部分が多くありましたが、このタイミングが非常に難しいですね。一部早過ぎるのではと思う部分もありましたが、あまり間が空くのも変ですし、この辺りは本当に難しいと思いました。

◎朗読の公演としては、めずらしいほど、アンサンブルがよかった。演出家本人が生演奏をするのは、フンイキに統一感が出て、よい試みと思います。

◎メイド服は、それだけでもとてもよいものなので、とても良かった。全体に細かい所まで作り込まれていて、クオリティーの高さを感じた、次回は男ばっかりで学生服の硬派なのだったりしたら面白いかも。いや、コスプレの集団になってしまうか。