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2009年11月13日金曜日

おいおい、それをげろきょに言ってくるか?

 先日、某オーディオブック制作会社から次のような主旨のメールが現代朗読協会に届いた。

「私たちは、オーディオブックを有料で販売しているのですが、現代朗読協会様の会員の皆様に対し、一部無料で朗読コンテンツをお楽しみいただきたく思い、そのようなことが可能かお伺いしたく、ご連絡差し上げた次第でございます」

 どうやらこの担当者は、私たち現代朗読協会の会員が多くのオーディオブックを収録していることを知らないらしい。てか、そのくらい調べてよ!
 私は思い浮かんだ疑念をそのまま書いて返信した。

「上記のようなご提案をいただくにあたっての御社の目的をお聞かせていただければ幸いです。当協会の会員が御社のコンテンツを無償で楽しませていただくというのはありがたいですが、それによって御社がどのような利益を得るのか、あるいはそのようなものは求めておられないのか、教えてください」

 それに対する回答メール。

「まず、無償という点なのですが、全コンテンツを無料というわけではなく、○○円クーポンという形で対応させていただければと思っております。(おそらく、現代朗読協会様の会員の方々は、価格の安い文芸のオーディオブックを好むと思われますので、多くが無料というかたちになると思われるます。)ですので、弊社としても、上限なく負担をするというわけではございませんので、その点をご理解いただけると幸いです。
 また、弊社の利益に関してなのですが、オーディオブックを気に入っていただき、これから弊社のサービスを使っていただければ、それは弊社の利益となると思っております」

 つまり、営業の一環だったわけね。それだったらわかる。
 しかし、こちら側もそっちと同じ作り手の立場なので、はいそうですかというわけにはいかない。げろきょの正会員が制作・収録にたずさわった作品は、多くが iTune Store、OnGen、Mora、パピレスなどに出回っている。
 そういった長年の活動を通して、私が危惧を抱いていることがひとつある。

 衆知のとおり、日本ではオーディオブックのマーケットの拡大がなかなか難しく、普及も遅々として進まないというのが現状である。もちろん少しずつ増えてはいるが、諸外国の事情に比べるとあまりに貧相といわざるをえない。
 日本という国の国民性や教育や出版事情などさまざまな要因があってそのようになっているので、いたしかたない面は多分にあるのだが、普及をさまたげているもうひとつの要因があって、私はそれに危惧を抱いている。
 iPod・iPhoneやメモリウォークマンなどのメモリプレーヤーの普及で、多くの人が一度はオーディオブックを聴いてみようとする。
 が、たまたま聴いた無料や安価な作品のクオリティの低さに、「なんだこの程度か」といって二度とオーディオブックを手に取ろうとしない人がたくさんいるのだ。
 私は、日本においてオーディオブックを普及させるには、たとえいまは苦しくても一定以上のクオリティを死守しなければならないと思っている。そのために、現代朗読協会でも読み手を育て、また(これが非常に大事かつ難しいところなのだが)オーディオブック・ディレクターをも育てている。
 ディレクターには文学作品や日本語表現に対する深い造詣と、音響技術に対する高いスキルが要求されるので、簡単な仕事とはいえない。しかし、多くのオーディオブックメーカーが非常に気軽に、安易に、安価に制作をおこなっているように見受けられる。読み手を含む人材を育てている制作会社は聞いたことがないし、それをおこなっている現代朗読協会に対しても人材を求めてきたり、教育を受けさせるために門戸を叩くような会社も皆無だ(アイ文庫を除く)。
 クオリティの低い作品が大勢を占め、それがマーケットの成長を著しく阻害しているのではないかと、私は危惧している。

 以上のようなことを、営業メールを送ってきた制作会社の担当者に書いて、数日前に返信したわけだが、いまだになんの音沙汰もない。