2012年2月7日火曜日

【新】マイク収録におけるリップノイズ対策について


photo credit: zoomar via photopin cc

マイク収録にあたってのリップノイズ対策について、これほど系統立てて長年研究を積み重ねているところは、アイ文庫オーディオブック制作部門以外のほかにどこがあろうか。えへん。
以前まとめたリップノイズ対策の草稿が見つかったので、この末尾に掲載しておくが、この草稿が書かれた時点より対処法は進化しているので、その概要について簡単に書いておく。


おそらくかなり決定的なリップノイズへの対処法となるであろう発見は、

「身体の使い方によってリップノイズはコントロールできる」

というものだ。

末尾の一年前の草稿にも最後にそのことについて少し触れているが、まだ確信的ではなかったし、方法も確立されていなかった。

草稿にもあるように、これまでリップノイズというと滑舌など発音回りの柔軟性や唾液、マイクの使い方など、口まわりのテクニカルなことに注目することが多かった。私もそうだった。が、このところ、朗読者、音声表現者の身体性についてさまざまな角度から考え、いろいろな実験を重ねてきた結果、これらだけではなかなか解消しにくいリップノイズも、身体の使い方で解消できることがわかってきた。


経験のある人は体験的にわかっているだろうし、経験の浅い人も想像してみればすぐにわかるように、音声表現は表現者の身体性と切り離して考えることはできない。表現者の身体つきが変われば表現も変わる。逆に身体をコントロールすることで表現の質を変えることができる。

自分の身体に対する繊細な感受性を持っている表現者の表現は、繊細でクオリティの高いものとなるのは当然だし、その逆もいえる。

たとえば、右手の五本の指を鷲のかぎ爪のような形に曲げて力を入れた状態で、なにかを読んでみてほしい。読みが変化するはずだ。そのとき、口回りについては一切なにも変えたわけではないのに、手の指の形を変えるだけで読みが変化することが重要だ。

この指の形は古武術研究家の甲野善紀氏が考案した「虎の子」という手の内の技で、指をこの形にすると自分でも思ってもいない力を出すことができるというものだ。


このような方法をリップノイズ対策に用いることができる。

リップノイズは人によってさまざまな種類があり、いちがいに「これをやれば全部解消できる」という方法はないが、ポイントはわかっている。各人の身体性に合わせていくつか検証してみることで、その人のリップノイズに有効な対策がわかる。

とはいえ、身体性を利用したリップノイズ対策を有効にするためには、表現者がまず自分自身の身体に対する繊細な感受性を身につけ、日々身体能力の向上に努めていることが必須条件になることはいうまでもない。

身体性を利用したリップノイズ対策の詳細については、アイ文庫までお問い合わせください。


(参考)これはいまから一年ほど前に書かれたものです。

■マイク収録における声優や朗読者のリップノイズ対策(草稿)


アイ文庫ツイッター(http://twitter.com/ibunko)で配信した簡易ドキュメント「マイク収録における声優や朗読者のリップノイズ対策(草稿)」をまとめました。

あくまで草稿ですので、まだまだ不備があると思います。これを読んでなにか気づかれた方、追加・訂正などある方は、どんどんお知らせください。みんなでリップノイズ対策を共有しましょう。

技術的に解決できることは、お金を払って専門学校などで習わなくても、共有知識を持ち、それぞれが独自にトレーニングできるといいですね。


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音響スタジオにおけるオーディオブックなどのマイクを使った収録時に、大きな問題となるもののひとつに「リップノイズ」がある。ほかにも「ポップノイズ」「ペーパーノイズ」などもあるが、こちらは解決策が明快なので取り上げない。

リップノイズについて2通りのアプローチがあるので、整理しておく。


ひとつは収録する側からのアプローチ。声優や朗読者に読んでもらう際にリップノイズが発生した場合、基本的には読みなおしてもらう。しかし、さまざまな事情で読み直しができないことがある。

また、こちらがリップノイズが混入したことに気づかないこともある。そういう場合は、収録データを編集する際に、ノイズを除去するしかない。波形を見て手作業で細かく除去したり、さまざまなプラグインのイフェクターを使ったりして作業する。

取りのぞけないことはないが、時間と手間がかかる。つまり経費がかかる。

収録後の作業経費が生じる朗読者は、以後、収録側の気持ちとしては使いにくい気持ちになる。なので、もちろんリップノイズがない読み手であることが理想的である。読み手はこれを目指すことになる。


ふたつめは、その読み手側からのアプローチ。

前記のような理由で、リップノイズは表現そのものには影響を与えることは少ないが、オーディオブックなど「コンテンツ」として固着するようなものにおいては、残念ながら「傷」としてとらえられる。また、作業経費の問題もある。

表現は表現として磨く一方で、収録技術としてリップノイズ対策をしておくのは、読み手としては必要なことだろう。

まず、リップノイズの種類について客観的にとらえておきたい。リップノイズ、という単純な単語にまとめられてしまっているが、実際にはさまざまな種類がある。


(1)文字どおり、唇が発するノイズ


これは実は比較的少なく、また対策も容易である。

唇が閉じた状態から開かれるとき、粘膜や唾液によって粘着質な「プチッ」という音が立つことがある。これを防ぐには、単純に読みはじめるときに唇をあらかじめ開いておけばよい。


(2)舌と口腔の関係で生まれるノイズ


これが一番多く、多様でもある

舌は発音のとき、さまざまな動きをする。

日本語の場合、5つの母音があるが、この母音のみの発音でノイズが生まれることはほとんどない。ノイズが発生するのは、子音の発音がともなったときだ。

「か」「さ」「た」「な」「は」「ま」「や」「ら」「わ」「が」「ざ」「だ」「ば」「ぱ」などの子音があるが、このなかで「は」「ま」「や」「わ」の行はノイズが舌の動きの構造上、発生しにくい。その他の行ではどの音からも発生する可能性がある。

また、「か」とか「し」とかいう音節だけでなく、「わたしは」とか「うみの」といった単語になったときに発生しやすいノイズもある。これらのノイズは各人各様で、「こうすれば解決する」という一様な方法がないところがやっかいである。


アイ文庫や現代朗読協会では、ひとりひとり個別にノイズの発生原因を分析して特定し、その対処法をいっしょに考えることをしているが、その際にだれにでもいえるのは、「口腔と舌の柔軟性と運動性の低い者はノイズが発生しやすい」ということだ。

だれにでもできる基本的対処法がひとつある。それをまずやってみる価値はあるだろう。


「口腔と舌の柔軟性と運動性」を高めるためにやれること。

口腔は骨格と筋肉と粘膜、その他神経や体液管などの充填物に囲まれた空間である。とくに筋肉の柔軟性と運動性が重要だ。

口腔回りの筋肉は無数にあり、いちいち記述しないが、大きくまとめると顔面や口回りを覆う「表情筋(と呼ばれる筋肉群)」、顎の開閉や左右の動きをコントロールする(鎖骨のまでつながっているものもある)筋肉群があろう。これらの運動方法を個別に考えればいい。

現代朗読協会ではこの運動方法を考案し、皆でシェアしているが、こちらに来れない事情がある人は、ひとりでも、筋肉のことを調べ自分なりに工夫することは可能かと思う。

舌もまた喉の奥深くまでつながっている多数の筋肉の固まりである。

筋肉であるということは、つまり適切におこなえば強くしたり柔軟性を高めることがだれにでもできる、ということである。筋肉は加齢によって徐々に衰えていくが、トレーニングでブレーキをかけられる。

舌の運動はいわゆる「滑舌練習」というものに集約されていることが多い。

声優学校などでも盛んにやるだろう。逆にいえば、この練習しかしなければ舌の運動しかしないということになり、口腔回りのほうがおろそかになっていることになる。やみくもに「滑舌練習」を反復的に機械的にこなすだけ、というのは表現者の行動ではない。どの筋肉がどのように動いているのか客観的に把握し、自覚的に運動したりストレッチするようにしなければ効果は少ない。

現代朗読協会では舌の運動性と柔軟性を高めるためのトレーニング法も持っているが、これもまた個人で工夫することは充分に可能だろう。

ともあれ、この過程で個人の個別に苦手な運動が洗いだされてくるので、そこを重点的にトレーニングすればいいということになる。

筋肉と骨格、運動機能についての参考書は適切なものが多くあるが、煩雑になるのでここでは挙げないことにする。


(3)口腔および骨格の構造から生まれるノイズ


まれに構造上の欠陥からノイズが発生する人がいる。たとえば歯並びが極端に悪い、歯や顎の噛み合わせが悪い、といった原因だ。生まれつきだったり、後天的な癖によってついてしまった「ゆがみ」であったりする。

こういう人は、たとえば「し」という発音のとき、息が舌の先端部分からではなく、横から奥歯のほうへ抜けてしまう、というようなことが起こる。これを直すには、構造を変えるしかない。つまり、歯や顎を外科的に治療してもらうしかない、ということになる。

ノイズや発音の問題が構造上の由来であるかどうかは、ある程度経験がある人が見れば(聴けば)、すぐにわかる。たいていのオーディオ技術者はわかるだろうし、ヴォイストレーナーなどももちろんわかるはずだ。アイ文庫のディレクターや現代朗読協会の講師ももちろんわかる。


以上がリップノイズの主要原因と対策についてのおおざっぱなまとめである。

繰り返すが、リップノイズの発生原因については千差万別、それぞれ個別の要因があるので、ひとからげにして論ずることは大変難しい。悩んでいる方は個別に相談してほしい。

また、それ以上に大きな問題として、「自分がリップノイズを発していることにそもそも気づいていない」というものがある。これは高性能のマイクを使った静穏室(スタジオ)での収録を行なえば確実に判別できる。収録し、録音したものを緻密な環境で聴けばわかる。


朗読は身体を使う表現行為なので、とかく発音・発声といった口まわり、喉まわり、せいぜい呼吸まわり程度にしか注意を払わない人が多い。しかし私たちは、全身を整えることでリップノイズも含むさまざまな問題が解決されることを、実際に経験している。

それは体幹の強化であったり、股関節の柔軟性であったり、また姿勢であったり、身体全体への意識の持ち方であったりする。これらすべてを、たんなる経験則ではなく、論理的・客観的にまとめ、対処法を実践しているのが、アイ文庫であり、現代朗読協会なのである。

悩みをお持ちの方、実際の収録経験をしてみたいという方は、気軽にお訪ねいただきたい。アイ文庫や現代朗読協会のホームページから、あるいはメールやFAXや電話でお問い合わせいただければ幸いである。

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